未来を志向する事業

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蔵の会設立趣意奢には次のように述べられている。「郷土喜多方市の歴史と風土に眼を向け、市民の心の象徴として培われた蔵への認識を深めると共に、その保存と活用に意を注ぎ蔵に象徴される先人の心根、即ち蔵に表出させた町づくりの思想的背景と気概(意気地)を継承、発展せしめ、地域、経済、社会、文化の振興に寄与すること」をうたっている。この趣旨をふまえて主要事業として次の五項目を掲げ、

  • 伝統文化の継承と発展に関する事
  • 歴史的町並や地域の蔵文化を生かした町づくり構想の推進
  • 市民ニーズによるイベントの企画
  • 関係機関、団体との連携と共栄
  • その他、設立目的に合致する事業

となっている。これらの事業の具体的な展開に際しては、会員だけの独善的、利己的なものにならないようにし、地域の社会、経済、文化の振興に寄与する事を最終の目的とすることにある。会の事業はややもすると単なる会員の親睦会や懇親会等に限られる傾向になりがちである。しかし蔵の会は、まず現在まで蔵の町喜多方の呼び声のもとで何が成されて来たのか、推進に当たっての陰路は何かを振り返りここに新たな方向づけを志向し構築することを考えていかなければならない。そのためにも、行政のみに頼ろうとする他力本願的な考え方や態度を改め、会員自らの手による自力本願の立場で行政とは異なる独創的事業を実施し、会員各々の絆を強め、お互いが希望と意欲を喚起させ得るような満足感に満ちた事業を実施し得るよう努力し事によっては市民への協力を求めながら、蔵の会を核とする地域社会の振興や経済活動の活性化に連結させていくことの必要性を感じている。こうして各々の会員が、会の理想を実現しながら、一つ一つの事業が生き生きしたもの、問題解決への開眼や処方箋となるような歩みを積み重ねていくことが望まれる。

十月二十二日(日)に実施された第一回の事業には、蔵所有者間の巡回見学の催しとして、会員間ならではの見学会であった。建造物の時代考証や床の間の構えと襖壁の仕組み等の技術的特色の説明、当主からの蔵座敷や家の系譜の説明、そして貴重な書画骨蓋、中でも加藤遠澤や丸山応挙の絵、尾形月耕や土佐光起の屏風、野出蕉雨を始めとする会津の画家の作品や、皇后陛下からの拝領の人形などを鑑賞できたこと。合わせて建築業者と左官の両専門家からは、蔵の維持や補修の技術的説明をいただき感動の一日であった。こうした事業は今後も継続する計画であるが、蔵の会として、蔵の活用という課題の取り組みを考えるとき、散在する蔵の幾つかを地区別、季節ごとに交互に解放し、観光客や学術研究者などの受入れができるとすれば、蔵の町喜多方へのイメージも新たなものに変わっていくことと思われる。しかしこのことは今後会員の中で十分検討されなければならず、よしとすれば旅行業者の商品プランとして、販売させることも可能となり観光客誘致の新しい目玉となり得るかもしれない。わが国の指定文化財や文化遺産の中には、現に居住空間として日常の生活が営まれているものが多く、本市蔵座敷もそれにもれるものではない。そのため一般公開は種々の問題をなげかけるものとなっている。所蔵美術品の展示公開についても同様で、貴重なものであればあるだけ、作品そのものの露呈したままでの展示は、湿度や気温に左右され易く、その取扱いは安易にはできず、慎重さが求められることになる。それに一般民家だけに、参観者の教養とモラルの問題は避けて通れず、決断を鈍らせる結果となっている。ただ貴重な絵画を始めとする美術品の鑑賞会、勉強会は会員間において作品の許される範囲で持ち寄りながら実施していければと考えている。

(出典 「蔵に育まれた人々 明日をひらく 蔵の会」 文 伊藤 豊松)

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